大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)243号 決定 1973年3月09日

被疑者 本間武司

主文

原裁判を取消す。

理由

(申立の趣旨)

原裁判を取消す。右被疑者を勾留する。

(申立理由の要旨)

被疑者には刑事訴訟法六〇条一項に規定されている勾留の理由および必要性がある。また被疑者が同法二一二条一項にいう「現に罪を行つている者」に該当することは明らかであり、被疑者を現行犯人と認めて逮捕した手続に違法はない。

(判断)

よつて判断するに、

一、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があること、被疑者について刑事訴訟法六〇条第一項、第二、第三号に該当する理由があること、および被疑者を勾留する必要性があることは一件記録によつて明白である。

二、そこで本件被疑者が、刑事訴訟法第二一二条第一項にいう「現に罪を行つている者」に該当するか否かについて検討する。

一件記録によれば本件被疑者が逮捕されるにいたるまでの経緯は次のとおりであると認められる。すなわち事件当日の昭和四八年三月五日午後四時二〇分ころ、被疑者は品川区戸越六丁目一三番一五号先路上(以下第一現場という。)で被害者から女物腕時計一個を喝取したのち、さらに同人から現金一万円を喝取すべく、その場で「今夜午後一〇時この時計を返すから一万円持つて地下鉄中延駅入口に来い。約束をやぶるんじやねえぞ。もし警察に届けたら俺の子分がお前の身体を保障しねえぞ」などと申し向けて金員を交付すべきことを要求したうえ、同日午後九時四〇分頃被疑者が金員交付の場所として指定した地下鉄中延駅入口(以下第二現場という。)において被害者に「金を持つてきたか。ここではまずい。喫茶店に行こう」と申し向けて、金員の交付を受けようとした。

ところで逮捕警察官らは、当日午後八時四五分頃被害者から電話による通報を受け直ちに金員交付の場所として被疑者が指定した第二現場に赴き、同所で被害者と会い被害の状況を聞いたうえ、付近に張込み警戒中同所に来た被疑者が前記のように被害者に「おい、金を持つてきたか。ここではまずい。喫茶店に行こう」と云つて被害者を喫茶店に連行しようとするのをその一メートル位の距離で現認し、被害者から被疑者が犯人である旨の合図をうけてその場で被疑者を恐喝未遂の現行犯人と認めて逮捕したものである。

以上の経緯からみれば、被疑者は現金一万円を喝取すべく、第一現場で脅迫行為を行ない、継続する被害者の畏怖の状態を利用して第二現場近くの喫茶店で現金一万円の交付を受けようとしていたのであるから、現行犯逮捕された第二現場における前記のごとき被害者に「金を持つて来たか。ここではまずい。喫茶店に行こう」と云つて、被害者を喫茶店に連行しようとした行為も、恐喝という一連の実行行為の一環であつて、現に罪を行いつつある者であるということができる。また逮捕警察官らは、前記のごとく被害者から被害状況を聞きかつ、被疑者の第二現場での言動をすべて現認しているのであるから、逮捕警察官らにおいて右の両者を綜合して客観的に明確に被疑者が現に罪を行いつつある者であると判断したのは正当であると云うことができる。すなわち、逮捕警察官らは、被害者の供述のみによつてではなく、被疑者の実行行為の一部をも現認したうえ、被疑者を現行犯人として逮捕したものであつて、右逮捕手続には何ら違法な点は存しない。

三、よつて被疑者に対する勾留請求を却下した原裁判は不当であり、本件準抗告の申立は理由がある。

(適用法令)

刑事訴訟法四三二条、四二六条二項

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例